2015年10月3日
66センチ
得原 藍さん
 ねえ、生まれてきてくれた、きみ。人間の細胞で一番大きな細胞は、卵子なんだって。0・2㍉。たった一つの細胞が分裂を繰り返して、きみは66㌢になった。生後半年と少し。
 きみが宿ったとき、わたしはとても不安だった。きみが数㍉に成長して、その心臓が成人の3倍の速さで鼓動を刻むようになっても、わたしは不安だった。きみの内臓がある程度整って、万が一すぐに生まれても生き残る可能性が出てきたとき、きみはバター2箱分の重さで、そのときもわたしは不安だった。きみの顔を初めて立体的な画像で見たときも、わたしはまだ不安だった。
 出産予定日を5日超えて、朝方おなかがしくしくしたときには、やっと不安から解放されるような気がして少し冷静だった。そこから23時間を超えて、新月の冬至に生まれたきみを見て、それまでの不安が喜びとのマーブル模様に変化した。それからずっと、その渦は消えずに形を変えて、わたしを常に包んでいる。
 横で眠るきみの顔は、穏やか。きみの歌うような声が、わたしの心の渦を大きく動かす。きみの泣く声が、その渦を乱したりもする。眠れなくて、きみを抱きながら泣いた夜もあったけれど、梅雨が明ける頃、寝不足を愛せるようになった。
 これまで夢を見ていた時間、わたしはきみの姿を見ている。ふと笑うきみの寝顔の奥のその夢を、いつも想像してしまう。ねえ、いつか夢の話をしよう。今日見た夢の話を。未来に見る夢の話を。