2014年7月12日
「トロイメライ」
モコのママさん
 結婚して2年目。待ち望んでいた赤ちゃんをおなかの中で育てている時、お父さんが胎教に良いからとシューマンの「子供の情景」のレコードを買ってきました。その中の「トロイメライ」が母はとり分け好きで、1日に何度も聞きました。おなかに手をあてて「聞こえる? ママ、これがとっても好きなんだ」と語りかけました。
 生まれてからはゆっくりとレコードを聞く時間などなく、あなたが物心ついてからは専ら幼児向けのレコードばかり。そのあなたが大学生になったある日、少し興奮ぎみに、母に話したこと。
 「友達と喫茶店でお茶してたら、ある曲が流れてきたの。それが初めて耳にしたはずなのに、なんだかすごく懐かしいような。昔から知ってるような曲だったの。マスターに尋ねたら『トロイメライ』だって。私、この曲、すごく好き。」
 母は心の中でヤッホーと叫びました。すぐさま話してあげました。すっかり忘れていたこのエピソードを。
 あなたはえーっ!と言ったきり、母の顔をじーっと見つめていましたね。温かいものが2人を包みこみました。
 あなたが結婚して八年。まだ子宝には恵まれないけれど、いつか小さな命が宿ったら、必ずトロイメライを聞くでしょう。私と同じ言葉を語りかけるでしょう。おなかの子に。